■荘淑旂(ソウ・シュク・キ)医師の考え方を著書から抜粋
S58-11-25創刊の「からだに合った食べ方」より 
「衣、食、住、行」の環境を整える 七情をコントロールする心をもった人間は、表情も豊かです。しかし、さらに健康で美しくありたいと望む場合は、自分の環境を調整する必要があります。

 元来人間は、先天的な素因をもって生まれてきます。この先天的な素因は、両親がもっている遺伝子だけでなく、受胎するときの両親の健康の度合いや和合のときの心理状態、食べすぎていたり、飲酒がすぎて酔っていたかどうか、あるいはそのときの天候や気象状況にまで影響を受けて決定されます。

 体の強弱は、先天的なものが半分とあとの半分は、後天的なもので作られるとよく言いますが、衣食住行の環境を正しく整えた生活をしていると、先天的なマイナス点は、マイナスに作用することなく押さえ込むことができます。

 特に病気に負けない防衛力は、後天的な環境遺伝子を調整することで現れますから、たとえ先天的に虚弱というマイナス点を持っている人でも、衣食住行を正しているとしだいに心身ともに健康な体につくりかえていくことができるのです。

 衣食住行のなかで、人間の健康に大きく作用するのは、毎日食べる食事です。衣住行も健康に関与はしますが、冒頭で述べた「内服整形」を読んでおわかりのように、 食はその人の体型まで変えていくのです。いえ、体型だけではありません。その人の心なども変えていきます。
 せっかく7情を乗り越える心をもっても、食の誤りのために内臓の働きが弱くなり、その結果、神経がいら立ったり、ストレスがよけいにつのったり、ということになっては、何にもなりません。

 七情を乗り越えることは基本ではありますが、この七情の調整をじゃまするような食べ方は慎まなければなりません。
 七情をコントロールして表情豊かに、そして食を正して体型を正常にできたとき、初めて心身ともに健康で、世の中のすべてと調和がはかれるすばらしい人間になれるのです。

津液(しんえき)のバランスを保つ  悲しいことがあると食欲がなくなったり、ショックのために下痢をする、という経験はありませんか。人間は、悲しい思いをすると腸液が出なくなり、背中が凝ると胆汁の分泌が悪くなったりするのです。
 心臓は心臓、胃は胃、あるいは心は心というように、それぞれが独立していないところが、人体の不思議でもあるのです。

 ところで、人間の体の各器官が、いったいそのようにつながっているかを説明しますと、人体の70%は水分です。とはいってもこれはただの水ではなく血液、リンパ液、消化液、分泌液などのすべてが含まれます。
 そしてこの70%の水分がじつは「健康をにぎる鍵」なのです。というのは、人間の体は五臓六腑といわれる内臓器官も、皮膚も、とにかく体全体が膜と腠によってつながっていて、その膜と腠を流れる津液(70%の水分)が、質、量ともにバランスよく順調に流れていることが、何よりも大事なのです。
 
  この津液は、出所、行所、用所の三つに分けて考えられます。出所というのは、津液がつくられる場所、行所は津液を体中に運んで循環させるところで、用所というのは津液を使うところです。
 この三つの中には、さらに機能と機構という働きがあります。三つの機構は三陽、三つの機能は三陰です。この三陽、三陰を総称して六系と呼びます。

 この六系は、相互にコントロールし合って体のバランスを整えています。例えば、用所の一部の筋肉が運動すると、出所でつくった津液が必要になり、運び屋の役目を果たす行所の働きが起こります。
 このように、六系は人間の体の中で常に連絡を取り合い、コントロールし合って生命を維持しているのですが、この六系を総括しているのが津液、つまり体の70%を占める水分なのです。

 津液のバランスがとれていれば、体内諸器官の働きはすべて順調にいき、健康は保たれます。そして、だれもがもっている自然治癒力や抵抗力、防御力が十分にその力を発揮でき、病気を寄せ付けないのです。
 しかし、津液のバランスがくずれると心身の調和も取れなくなり、防衛力が衰えてしますので、かぜをひきやすくなる、胃が悪くなる。腸が悪くなる。呼吸器も、心臓、腎臓、肝臓、脾臓もといったぐあいに病気が起こってきます。

 中でも、萬病由傷寒而来(かぜは万病のもと)ですが、この万病は、病由口而入為多(病気は口から入ってくる起こることが多い)のです。健康をつかさどるのは津液ですが、この津液のバランスを保つのは、私たちが毎日いただく食事や飲みものによることを忘れてはなりません。
 
  毎日の食事や飲みものが正しくなされていないと、津液の循環に乱れが生じ、健康を害する元になります。すべての病気は津液のバランスの不調によると考えたのは、漢の時代の張仲景先師(長沙の太守をしていた)です。

 さらに病気については三焦の病という考えがあります。津液の循環は、横隔膜を境として二分され、横隔膜より上を上焦、下を下焦、横隔膜付近を中焦と呼び、 人体をおおまかに三焦に分けて考えられるのです。
 津液の循環の不調によって起こる人間の病も、この三焦に分けて考えられるのです。中焦の病は、横隔膜付近に津液が停まっている状態です。

 しかし、上焦、中焦、下焦の病は、それぞれ独立した病ではなく、三焦は関連し合っていますから、上焦部の病である肺がんや気管支ぜんそくは、下焦部の腸を整えることで予防します。 人体をつなぐ六系を整えるために、津液のバランスをとることは、三焦の病(全体の病)を予防することにもなるのです。
 
食の誤りと三つの体型  体型が内臓の働きに関連していることは、内服整形のところで述べましたが、体型にゆがみを持った人が、まちがった食べ方を積み重ねていくと、症状や病気が悪化するだけではなく、たいへんに危険なことにもなりかねません。

 猫背の体型の人は神経が不安定になりがちで、ストレスやいらいらをためてしまいがちですが、この体型の人が神経の疲れを癒すために香辛料のきいた料理を食べたとします。
 自分では、少し、ピリッとしたものを食べて、ひずんでいる心身を緊張させようと考えているのかもしれませんが、実は猫背の体型の人に香辛料は禁物で、その結果、神経はますます不安定になり体の不調は改善されるどころか悪くなってしまいます。

 神経が疲れやすい人は、とかく偏った食物をとりがちですが、その偏りが連続すると、体型はやがて太っていくか、やせていくかし、さらに、胃部やウエストの出た体型になるか、下腹が出た体型になってしまいます。
 猫背の体型の人に悪い調味料は甘辛い味付け、そして避けてほしいのは香辛料です。

 私の国では、料理は単一の調味が原則ですが、日本では「すき焼き」や野菜の「うま煮」が代表的する甘辛い味付けの料理が、 好んで食べられています。
 甘辛い食べ物がなぜいけないかについては、甘い味と塩辛い味という相反する作用の味をいっしょにすると、受け入れる人体側の神経が混乱するからです。 また甘辛い濃厚な味付けをしたら、その食物の持ち味もわからなくなってしまうという欠点も当然あります。

 神経が不安定になると消化、吸収力が低下するので、内臓にはガスや老廃物がたまります。このことが、さらに神経をいら立たせるもとになるといった悪循環になるのです。

 猫背の体型から胃部やウエストが出ている体型に進行した場合についてみると、食べ方の比重の間違いが問題になります。つまり、朝は軽く、夕食にウエイトをおいた食習慣の人が圧倒的に多いのです。
 胃部やウエストが出ている体型は、過食と運動不足が悪循環をつくっていますが、意外に疲れやすい傾向があります。
 この体型の人が 疲れを癒すために、スタミナ増強をしようと、香辛料のきいた分厚いビフテキを夕食に食べた場合、果たして疲れがとれたかというと、残念ながら結果は反対に作用します。
 
 これは、火を消そうと思いながら油を注ぐようなものなのです。このような無謀なことを繰り返していると心臓発作、脳卒中、ぽっくり病などで倒れるということも、起こりかねません。
 
 また、内臓下垂のために下腹が出ている体型の人が、酸っぱい味のものを食べ続けていると、内臓下垂がさらに進んでしまうことは前述しましたが、さらに、鼠径部を圧迫して、下肢の神経痛を起こしたり、歩行困難になることもあります。

 それぞれの体型が、その食べ方の誤りでつくられることはわかっていただけたでしょうか。体型が正常であることは、内臓もひずみのない健康体と思ってくださってよいのです。 そして、正常体型の人は、いつでもどんなものでも、またどんな味付けのものでも、自分の好きなものを食べてよいのです。ただし、正常体型だからと言って、偏った食べ方を続けない注意は必要です。
 
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